最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)100号 判決 1966年7月15日
上告人
宮代芳男
右訴訟代理人
石川功
被上告人
株式会社三忠商店
右代表者清算人
三尾秀四郎
被上告人
三尾秀四郎
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人石川功の上告理由第一ないし第五点について。
原判決によれば、本件土地は上告人の所有であり、昭和二七年八月一日に被上告人三尾個人に対し建物所有の目的で賃貸したところ、上告人はその後にいたり、当該地上にある本件物件については昭和二七年七月二六日付で旧所有者鹿島慶一から被上告会社(その代表者は被上告人三尾)に所有権移転の登記がなされていることを知り、右は被上告人三尾が本件土地賃借権を被上告会社に無断で譲渡(または転貸)したものと主張して賃貸借契約を解除したのであるが、原判決は、右譲渡(または転貸)は賃貸人に対する背信行為とはいえないと判断して、契約解除を無効としていること論旨指摘のとおりであり、論旨は、右判断に違法があると主張するものである。
しかし、原判決が確定した事実、すなわち、被上告人三尾は先代時代から三忠商店の屋号で織物の製造加工業を営んでいたところ、税金対策と金融の便宜のため、昭和二五年頃右営業を会社組織にし被上告会社を設立したものであるが、営業の実体は個人営業時代と変わらず、事実上被上告人三尾が自由に支配できるいわゆる個人会社であること、被上告人三尾は、一つには家族の住家とし、一つにはこれを担保に事業資金を借り入れようとの考えから本件建物を会社名義で買い受け、上告人と本件賃貸借契約を結んだのであるが、貸借の交渉にあたつて特に真実をかくそうとの意図はなく、被上告人個人の所有も同然との考えから所有名義の点にふれなかつたにすぎず、格別悪意も作為もなかつた等の事情に照らせば、背信行為と目するに足りない特別の事情がある旨の原判決の判断は正当として是認できる。借地人が、借地後組織を変更した場合と本件の場合と実質的に相違はなく、また背信行為かどうかの判断に当事者の主観が考慮されるのは当然であるから、右判断を以て誤りであると主張する論旨は、すべて採用するに値しないものというべきである。よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)